「アニス!!!」

その声を聞いて、完全にはっきりした。
数年前とは別人のようにも見えた。
アニスが、周りにいた詠師達を引き止めるとこっちに小走りでやってくる。

「おやぁ〜?皆勢ぞろい?・・・って、ナタリアがいないか。」

あ・・・
ルークは心の奥で軽くそう呟いた。
後でどんだけ叱られるか、少し背筋が凍る気がした。

「・・・とりあえず、久しぶりだな、アニス。」

「ルークだけおひさ〜!でも他の皆とはもう何回会ってるしー、特にガイ!」

「仕方ないだろ。陛下からいろいろ言われるんだから。」

「そういえば、ガイって前にピオニー陛下の忘れ物のためだけにここまで走らされてたっけ。流石使用人♪」

その言葉に反論する言葉も無く、ただ黙る。
それからは、少しの間だけだったが、いろいろと話した。
殆どは仲間達の面白い話だらけだったけど。
そして、話は一気に変わっていった。

「それにしても、ホントに似合いませんねぇ、その服。」

服?・・・

「ぶーぶー、仕方ないじゃないですか。【導師】はこの服じゃないといけないんだからー。」

「ど、導師!!!?」

ルークただ一人だけが驚く。協会に広く響いた。
周りにいた協会の人々の目線がルークに突き刺さる。

「・・・本当か?アニス。」

俄かには信じづらかった。
あのアニスが、そうだとは思えなかった。

「ホントーに決まってるじゃん!ルークは、アニスちゃんが嘘つくと思ってんの?」

「いや、そういう意味じゃないけどさ・・・」

軽く頬を人差し指で掻く。
やっぱり、何か引っかかる自分がいた。
ある意味アニスは1番嘘つきかも知れない。
その横で、

「んー、笑いを期待していたのですが、イマイチの様ですねぇ〜・・・」

わざとこっちに目をつけさせようとしているジェイド。
怪しさでいっぱいだが、とりあえず目をやった。

「あんた・・・何を期待してんだよ・・・」

「いやいや、ルークにだけアニスの導師を内緒にすれば、なんかおもしろーい結果が出そうだなー♪って思いましたが、残念です。」

その後ルークは小さく愚痴った。
だが、そんなことをしてもいつもの様に軽く避けられるように言われる。
次に口をあけようとした瞬間、

「はうあ!そろそろ、集会が始まっちゃう!それじゃ、皆まったねー!」

いそいそと、アニスが離れていく。
待ちくたびれたように詠師達に迎えられると、すぐに扉の奥へ行ってしまった。



「アニス、調子よさそうだな。」

「まぁアニスの場合だと、元気が1番って感じなんじゃないか?」

ガイの言う通り、元気あってこそのアニスかも知れない。
それでも、自分の罪に対してはそれ以上に罪深く感じてしまう。
だから、その涙の想いは消す事は出来ない。
あの旅でも2回泣いた。
両方とも、想いは深かった、特に2回目の自分だけが見た少女の涙は・・・

「・・・なぁ、ティア。」

「どうしたの?」

「なんでアニスが導師になれたんだ?いや、なったんだ?」

それは、さっき聞こうとしたことだった。
頭の中に残しても何か気になるので、皆になんとなく言ってみた。

「良く考えると確かにそうね。私は分からないわ。」

両腕を腹に添えるように組む。
ガイはともかくジェイドでも知らないことだったので、更に気になった。
ジェイドの場合、さり気なく知っていそうとも思ったが、これだけは本当らしい。
疑問は更に深まり、更に頭に残るだけだった。

とりあえず、久々のダアトだったので辺りを見回ってみることにした。
数年前とは全く変わっていない。
一つ変わったところがあるとしたら、アリエッタの墓がある事くらいだ。
導師守護役(フォンマスターガーディアン)だった頃のアリエッタは見たことが、きっとアニスと同じだったに違いない。
導師イオンは・・・皆に好かれていた。

「・・・あれは。」

導師の部屋の奥に入ると、そこには。
導師イオン・・・のレプリカ、フローリアンがいた。
ルークの姿を見た途端、少し落ち着けないかのようにおどおどし始めた。
でも、ティアが落ち着かせてくれた。

「・・・あなたは・・・?」

フローリアンを見たのはあの旅でダアトに戻すまでの間だけ。あまりにも短かった。
忘れられてしまうのも、普通といえば普通だ。

「俺は・・・ルークだ。何年も会ってないから、忘れられちまうよな。改めてよろしく。」

ルークが右手を出すと、フローリアンもゆっくりと小刻みに揺れながら右手を出す。
二人とも、あったかい。レプリカだとは思えないくらいに―。



「・・・アニスが導師になった理由・・・ですか?」

「あぁ、聞いてみたいんだ。あのアニスがどうやってなれたのか・・・」

「・・・分かりました。一つずつ・・・教えてあげましょう。あれは・・・」











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