それは、冬のある日・・・。
木々の葉は完全に雪に積もり、氷輪が落ちゆく季節。
王都インフェリア。
その晩、普通のホテルにいた4人。

「ううー・・・ホントにどんどん寒くなってきたねー。」

ベッドに座りながら、しゃべるファラ。
その口から白い息がよく見えている。
外には幾重にも降って来る雪が更にその空気を寒くしていた。

「そうか?メルディは全然へーきだよ!」

流石はセレスティア人。
ファラ達と同じく白い息は見えるのに、寒そうな気配が全くしない。
やっぱり、氷の大晶霊の息吹が空気に流れていると、自発的にそうなってしまうのか。
違う世界だと全く人も違う。

「この天候で平気なんて、僕には異常にか見えないな・・・。」

そのとき、キールはとにかく3〜4枚ほど重ね着していた。
メルディとは正反対にキールは冬が大嫌いだった。
勉強にも熱が入らない。体がひんやりとしてしまう。
とにかく、冬にはいい要素がないと感じているため、嫌いなのだ。

「そんなこと言ってもねー、仕方ないよ。・・・リッドもそう思わ・・・ってもう・・・。」

「何だ・・・えらく静かだと思ったら寝ていたのか。よくこの寒さで寝られるな。」

リッドにとったら、どんな気候も関係ない。
夏でも冬でも完全に森と一体化していたリッドには余裕だった。
その眠っているリッドにメルディがトコトコ、と近づいていった。

「リッドー♪雪合戦とか雪だるまとか作ろー♪」

いきなり、体を揺らして起こした。
メルディにとっては、寒がっている二人より寒がっていないリッドの方がいいと思ったのだ。
これも、見えない心からの優しさなのだ。
それでもキールには優しさを言う文字には聞こえなかった。

「おお!せっかくの1年に1回の冬だからな。ファラもキールもこいよ。」

その言葉を聞いた瞬間、無視するかのように本に目を向けた。
冬嫌いに、雪で遊べと言われても簡単にはできることではなかった。
しかし、ファラはリッドのやんちゃさに惹かれ、セーターを着込んでいた。

「・・・キールはやらないか?」

誘いの言葉も聞いてもやっぱり視線は本だった。
その姿にはリッドもファラも流石に幼馴染だったからか、理解してベッドから立った。
しかし、メルディはいきなりキールの腕を抱いてくる。

「め・・・メルディ!?」

かなり、頬が赤らんでいた。
二人にとっては、やっぱりメルディらしいと思いつめていた。

「・・・メルディだって寒い・・・だからあったかいキールが必要。」

その言葉に無言になり、本から目を離したキール。
今はとりあえず2人は見てるくらいしかなかった。
見ていて、それから目をそらさないのは、昔のリッドとファラに似ていたから―。

「・・・そ・・・そこまで言うなら・・・仕方ないな・・・」

渋々キールが納得し、メルディが飛び跳ねる。
腕を離さないまま、引っ張り出して部屋から二人が飛び出る。
キールも抵抗は出来たのに、あえて抵抗はしなかった。
楽しそうなメルディの顔を壊したくなかった。
ホントに昔のリッドの笑顔に似てる―。

「ホント・・・メルディらしいよね。メルディのおかげでキールが明るくなったと思わない?」

明るくなった?―。
リッドにとってはどういう意味で明るくなったのか分からなかった。
しかし、ファラの気をつかった。

「まぁ、そうなんじゃねーの。とりあえず早く二人を追いかけようぜ。」

いつもどおり安定しているリッド。
見かけと同じように見えるが、たまに違うことがあった。
それは、普通はわからない。
幼馴染みのファラだけが分かり合える。それだけリッドとファラは会っていた。
今も同じ。リッドの気遣いもバレバレだったが、いつも口には出さない。
お互いがお互いを気遣って生きていた。

「・・・うん・・・そうだね。」

このしゃべり方の躊躇いで、リッドもこれに気づく。
やっぱり、お互いが気遣うのだった。

外の雪はホテルの窓から見たよりも何倍も綺麗で多かった。
こうやってみてみると、空から降ってきた宝石のように綺麗だった。
しばらく、ホテルの入り口で雪の白銀に染まった王都に見とれていた。

「キールー♪ もっと大きくするよー♪」

「ど・・・どこまで大きくするんだ?・・・もう持ち上げられないだろう。」

ホテルのすぐ近くで大きな雪だるまを作っているキールとメルディの姿があった。
二つの雪の塊をあわせると丁度メルディと同じくらいの大きさになりそうなくらい大きかった。
地面に降り積もった雪も殆ど土が露出するほど消えている。

「お・・・重いよー。キールもいっしょに持ってなー;;」

「ったく・・・無茶するからいけないんだ。」

そう言ったが、渋々とメルディに近づき、雪を持つ。
二人合わせて何とか雪が持ち上げられる程度だったが、何とか雪をのせた。
同時に二人は額の汗を拭き取る。

「ふぅー。もう体がポッカポカだよー。」

「・・・案外こうやってれば・・・暖かくなるものなんだな・・・」

その場で二人は疲れたのか座り込んだ。
キールは流石に熱くなったのかセーターを1枚脱ぐ。
メルディは・・・ずっと白銀の雪が降り積もる空を見上げていた。

「・・・メルディ、どうしたんだ?」

「この上に・・・セレスティア・・・あるか?」

セレスティア―。
ここまで思いつめてるのも、冒険してるのもセレスティアに行くため・・・だったな。
本当に・・・迷惑かける奴だ―。

「セレスティアにも・・・こんな綺麗な雪が今・・・降ってるか?」

キールとは言っても・・・
流石にセレスティアの気候までは知らなかった。
でも、ちゃんとこの景色はセレスティアにもあるはずだ。
そう思いつめながら―。

「・・・降ってるさ。絶対。」

その言葉にメルディは微笑んだ。
キールはその笑顔を一瞬だったが、ちゃんと見ていた。
何故か、その笑顔を見た瞬間何かと気持ちが落ち着いた気がする。
本当に僕は知らないことだらけみたいだ―。

「ファラ・・・俺達は俺達の雪だるまでも作らねぇか?」

「そうだね。本当に久々だね。リッドと遊ぶのは。」

「・・・そうだな。」



その後いきなりメルディは立ち上がり、雪だるまに何かしていた。

「何をしているんだ?メルディ。」

「えっとなー。この雪だるまをキールにするんだな!」

辺りに枝が無かったので、クレーメルケイジでガリガリ、と雪だるまを削っていた。
軽くキールは唖然としていたが、注意はなんとなくやめた。
そして、何かメルディがガリガリ、としている間にさっきのメルディと同じく空を見上げた。
セレスティア・・・
僕にとってはすべてが謎の世界。
それでも・・・必ずこの雪は降ってる・・・よな―。
・・・僕に確信の無い言葉は合わないようだ。
本当に、すべてを知りたい―。

「完成だよー!これならキールに似てるよな!?」

その声が聞こえて、頭の中の幻想からハッと戻った。
ゆっくりと腰を上げて、雪だるまを見る。
その雪だるまはクレーメルケイジで髪をなぞって、そこらにあった石で目をつけただけだった。
なんとなく、可愛らしかった。
ここまで雑ではあったけど、メルディにとっては真剣に描いたものだった。

「これのどこが僕なんだ。本当の僕は・・・」

といって、メルディの持っていたクレーメルケイジをゆっくりと手に取る。
最初は雪になんて全く興味なかったのに、すっかりハマっている。
メルディは、何かと触れ合える不思議な光のようなものを持っていた。
案外・・・冬も悪くはない季節なのかも知れないなー。



「ファラー。もう少し雪はねぇのか?」

反対側で雪だるまを作っていたリッドとファラ。
殆どリッドが張り切っていて、一人でやってるようなものだった。

「もう。リッドがあたりの雪を全部取ったじゃない!」

さっきまであったはずの白銀の世界がリッドによって全てかき消された。
目の前にはファラくらいの大きさの雪の塊が2個。
どう考えてものせられるものではない。

「よぉし。こんくらいありゃ、きっとメルディもビックリするだろ!」

軽く手を温めようと息をかける。
そして、一人で雪を上げようとするリッドの姿があった。
・・・ホントに負けず嫌いなんだから―。

「・・・ファラ・・・」

「懐かしいよね。こうやって遊んだのいつ以来だろ。」

そう言いながら、一緒に大きな雪球を持ち上げた。
手は冷たいし雪球は重い。
無茶するのも・・・やっぱりリッドらしいって言えばそうなのかな。
でも・・・やっぱり無理をし過ぎないで欲しいな―。

「ふぅー・・・こうやって見るとでっけぇなー。」

首をかなり上げないと1番上までは見えなかった。
こんだけ頑張って作った雪球も、
いずれは消えてしまうけど・・・
それでも頑張れる心って大切なんだね。
・・・それがメルディの・・・夢?・・・を叶える力になるのかな。

「・・・うん・・・大きいね。」

このとき、ファラの中では何かリッドとの差が生まれた気がする。
昔は何もやってないリッドが上にいる感じはなんとなくむかついていた。
でも、今は・・・差がついても、認める・・・いや、信じるしかなかった。
そう考えられるリッドが少し眩しかった。

「・・・ファラ・・・思い詰めてても何も変わらねぇぜ?・・・気分転換に・・・ホテルに戻ってまねぇか?」

「・・・そうだね。・・・うん・・・」



部屋に戻ると、暖炉の近くで本を読んでいるキールとベッドの上で眠っているメルディの姿があった。
よく見てみると二人とも顔に喜びが軽く滲み出ていた。
キールは冬の意外な楽しさ、メルディはとにかく雪だるまで楽しんだ。
悲しむ要素が全く無かったからだ。

「なんだ・・・メルディはもう寝たのか?」

「あぁ・・・きっと外で遊びすぎて疲れたんだろう。ゆっくりさせてあげればいいだろう。
リッドとファラも・・・外で何かやってたのか?」

「まーな。軽く外でな。」

リッドとキールのただの普通の会話。
そのはずなのに・・・。
ファラは何かと口をあけてしゃべりづらかった。
思い詰めてても何も変わらない―。
さっきリッドに言われたばっかりなのに・・・。
思いが、揺らぎつづけていた。

「・・・私・・・疲れたから・・・寝るね。」

そう言うと、自然な姿の振りをして、ベッドに潜り込んだ。
普通な素振りをして潜り込んだけど会話がそこでとまってしまった。
しかし、戻ることは出来ない。
ベッドの中で思い詰めているしかなかった。

「さて・・・僕はコーピーでも作ってくるかな。」

そう言うと暖炉から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。

「なんだ・・・今日も徹夜か?」

「もちろんさ。リッドには必要ないことだから分からないがな。」

部屋の扉がガチャ、っと閉まる。
リッドは立っても仕方ないので、ベッドを椅子変わりのようにして座る。
いつも腰につけている剣をすぐ近くに置き、ゆっくりと体を伸ばした。

「・・・ファラ。思い詰めているなら、言ってくれよ。
いつも元気が取り柄のファラのそんな姿なんて似合わねぇからさ。
・・・でも、無理なら言わなくてもいいけどな。」

その言葉に軽く揺らいだ気がする。
でも・・・リッドが眩しいなんて・・・いつものファラには言えなかった。
強情な性格な私には・・・似合わないから。

それでも・・・
何故か涙が出てきたの。
止まらない。 とまって欲しいのに止まらない。
いくら涙を拭いてもまだ出てくる。
・・・それくらい、リッドが・・・眩しいのかも知れない。

「・・・おやすみ・・・ファラ。」



部屋の上についていた電気を消した。

暗いのは・・・分からなくて嫌いだけど・・・
リッドって言う光があるから、安心だよ―。



<後書き>
いきなり、こっちがはずいです><(ぉぃ
とにかく時間があまりなかったので、修正はしてないんですけどね^^;・・・
いきなり雪かよって言う突っ込みは拒否いたします!(マテ
・・・だって、多分今年の冬は番外編書かないと思うし・・・
何より、番外編の最初が面白いと、次もどんなんかきになるでしょ?(ぉぃ
まぁ、これが楽しいかは保証できませんが・・・ってかしません!(銃声