「・・・ん?」

今、洞窟で悲鳴のような物が―。
自分の耳に軽く触れる。

「ど・・・どうした・・んだ?ファラ。」

「んー・・・なんでもないよ!それより、キールこそ・・・」

ファラが、キールの足を指差す。
その足は軽く震えているような気がした。

「な・・・なんでもない!す・・・少し寒い・・・だけだ!」

あくまでも、キールは強がる。
しかし、その震えは洞窟の冷気だけではなかった。
その時、昔らしいキールの姿に3人の昔の姿がよぎった。
あの頃のリッドは、私が怖くても怖くなくても必ず近くにいた。
私も少し強がってたけど、それでもいてくれる安心があった。

「・・・そう・・・いこうか、キール。」

ホントに・・・離れるなんて、、、どこいったのよ!リッド!―。



「ぃぁ・・・そんなこと言われても・・・なぁ。」

頭を軽く触れ、照れていた。
本人にとってはいつものように獲物を倒しただけだ。
正直「様」とまで言われることはしていないと思っていた。

「いえ!リッド様って呼ばせてくださいです。」

コリーナはやっぱり、その想いを変えない。
リッドには普通でも命を救われた。
ただ、それがうれしい。

「・・・分かったけどよ・・・コリーナは、何でここに来たんだ?」

「えっと・・・静かに歌える場所が欲しかったです。」

歌手・・・?
リッドの第一印象はそれだけだった。
本人にとっては、歌なんて歌ったこと無かった。
たまに、ファラが口すさんでいるのを聞いた事があるくらい。

「歌・・・かぁ。・・・それより、あんなのが居るのが分かったんだ。ここから出ようぜ。」

さっきのエッグベアを見て、危険性を感じた。
辺りの気配を感じて何もいないと感じたリッドは、手を引いて進もうとした。

「・・・アィメン・・・。」

リッドの耳元で、静かながら、口すさんだ。
紫のふわふわした髪・・・メルディだ。

「な・・・なんだ。寝言か・・・。」

何気なく何故かホッ、としてしまったリッド。
特にそれには意味はない。
でも、何かが気になっているだけだった。

「・・・その子は?」

「あぁ。・・・メルディって言うんだけど・・・それが・・・」

「メルディちゃん!私コリーナって言うです!よろしくです♪」

リッドの警告にも耳向けずに、いきなりの一言。
軽く呆れたような顔を交えている。

「・・・パアェティ?・・・」

その声で、メルディが起きた。
やっぱり言葉は通じない。誰も分かるはずがない。
リッドはコリーナの呆然とした顔をただ見ていた。
しばらく時が過ぎると、コリーナが口をあけた。

「・・・ウ エトゥ コリーナ。ヤイオ エディン スンルンスチエ チイ・・・」

え?―。
リッドが一瞬唖然とする。
あまりにも、メルディの言葉に似ていたから。
メルディも眠そうな顔から、驚きの顔をしている。

「コリーナ・・・もしかして・・・メルディの言葉がわかるのか?」

やっぱり、そう口が動いてしまう。
普通、偶然であった人が見知らぬ言葉を知ってるなんて考えもしない。
ただの歌手かと思っていたからなおさらだ。

「・・・あれ?私は一体何をしてたですか?」

コリーナが頭を抑えて不思議そうな顔をする。
さっきのせいで、リッドの顔はまだ唖然としているままだったから。

「スンルンスチエ・・・ウティ パエス ピススウブルン ティイ フウメルルヤ トゥンンティ」
セレスティア人・・・やっと会えた
頭を抑えて完全に考え込むリッド。
それでも、正確な答えは出てくるはずがない。
誰にとっても、何が起きているか分からない状態であった。

「・・・あー・・・もうわかんねー!一体どうなってんだよ!」



「ファラ。この道はさっきも通った。戻ろう」

地面を照らしてみると、グミの欠片のようなものが落ちていた。
確かにこれなら、迷うことはない。
しかし、ファラの頭にはそんなことなど考えていない。

「クィッキー♪」

ひょこひょこと、どこからか出てきた。
その声にハッ、っとして考えが一度途切れた。
今の今までずっとメルディの近くにいると思っていたが、暗くて見失ったと思う。

「・・・なんだ・・・?見たこと無い生物だが・・・この洞窟にはこういう生物も・・・」

「・・・違うよ。クィッキーはメルディのペットだよ。だから、ここの洞窟の生物じゃない。」

本当にいままでどこにいたのか不思議だった。
たまに、メルディの首に巻きついて一緒に寝ている。
そういう印象しかなかった。

「まぁ、確かにこの洞窟には野蛮な生物ばかり・・・」

と、得意の理学に入ろうとしたとき。
クィッキーがぴょこぴょこと走り出した。
そして、目印であったグミを食べていた。

「モグモグ・・・」

「お、おい!僕が目印として置いたグミが食べるなぁ!」

そう言っても遅かった。
もう、よく照らしてみないと見えないくらい小さなグミの欠片ばかり散っていた。
そういえば、あまり餌とかやってなかった記憶がある。
お腹がすいているなら、仕方ない・・・ファラはそう思っていた。

「・・・あいつの動物はここまでしつけがなっていないのか。」

むすっ、とした顔で言う。
キールは片手でクィッキーを軽く掴んで、何故かファラに渡す。
クィッキーはファラの首に巻きついて、じっと動かなくなった。
メルディに会いたいんだよね。やっぱり。―




「長ぇー・・・いつまでこんな分かれ道が続くんだ?」

リッドとメルディとコリーナ。
洞窟を脱出しようとするが、全く戻れる目処がない。
さっきから、ずっとこんな分かれ道の連続だ。

「本当に長いですー・・・」

完全にへとへとな状態のコリーナ。
休もうとしていたが、奥からまた足音が聞こえる。
人間にしては大きい足音。多分またエッグベアだ。

「・・・またエッグベア・・・」

幾多の獣に呆れるリッド。
メルディをおろして、鞘から剣を取り出す。
その剣はもう獣の血だらけ。
しかし、それを気にせず腕を、そして剣を上げる。

「行くぜ。」

一気に獣に向かって走り出す。
洞窟に落ちている石がゴロゴロ、と転がり、響く。

雷神剣!

敵を突いた瞬間、辺り一帯に雷が光る。
その刹那で見えたのは、自分がエッグベアを刺している姿。
感電したエッグベアはドスッ、と倒れる。
その時、違う足音がリッドの耳に過ぎる。

掌底破!

え?―。
聞いた事ある声。聞いた事ある技。
と、一瞬思ってるうちに、掌底破がリッドに深く当たる。

「うぉ!?」

「え!!?」

掌底破を受けて、吹き飛ぶリッド。
倒れようとした時、足を地面に先につけて、何とか倒れるのを防ぐ。
立て直すと、コリーナが寄ってくる。

「どぅしましたです!?リッド様!!」

「っ・・・いきなり・・・」

言いかけの状態だったが、奥から走ってくる1歩1歩の音で掻き消される。
その音が、何かの募りと違う感覚が同時にやってくる。
しかし、それだけだ。足音は人間。
やっぱり・・・―。

「ご、ゴメンなさい!何か光ったから敵かと思ってて・・・」

走りこんで止まったと思ったら、潔すぎるくらい深く頭を下げる。
その時、ハッとした。
見覚えある髪、見覚えある服。
頭を上げて、リッドの顔をよく見る。
その顔に軽く手で触れる。
・・・リッド―。

「・・・一人で走ってって、ホントに心配したんだからー!

自分の中にある物を一気に出すかのように大声をだした。
そしてガシッ、と二人は抱きつく。
軽くリッドがドキッ、としつつ、抵抗はしなかった。
二人の関係は幼馴染みと変わっていない。
それでも、違う関係が旅を初めてから動き出している。
その二人を見て、少しコリーナが唖然とする。
軽くファラにムッ、としたが、すぐにその顔を消すように戻した。
その時、また奥から歩く音がする。

「はぁ、はぁ・・・ファラ・・・だから早いって言ってるじゃないか・・・」

壁づたいに、完全に息切れしたキールがやってくる。
ファラは反射的に掴んでいた手を軽く離す。
少し、心が涼しくなった。

「お・・・おぅ、キール。」

「なんだ、リッドも居たのか・・・んで、そこの人は?」

そう言うとコリーナを指に差す。
言われて、初めてファラも気づいた。
あんな大声で叫んだうえ、抱いた事に今ごろ赤面になった。

「あ・・・はい。コリーナでいうです。リッド様に助けて貰いましたです♪」

リッド・・・様?―。
清々しく言うコリーナ。 軽く怒りの眼差しがリッドに向けられた。
敬遠しながら、

「ち・・・違うってファラ、本当にただ助けただけで・・・」

言い訳にも聞こえたが、そこまでの嘘にも聞こえなかった。
ムッ、としながら、その眼差しを消す。
いつも、こういう事は最終的に何でも許してしまう。
厳しくしても、つい優しくしてしまう。



こんな性格で、私っていいのかな―。






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