「なんだ?キール!ホントにこんな所に洞窟なんかあるのかよ!」

いきなりの怒声。無理も無い。
4人の目の中に見えるのは奥まで続いていく海。
勿論どこにも洞窟なんて見当たらない。
しかし、キールだけは平然な顔をして全く困ってはいない。

「言っただろう。地下洞窟が発見された、と。」

薄い記憶の中で、微かにそう言ってた記憶も出てきた。
ってことは地下にあると思い、崖から海を見下ろしてみると、わずかだが洞窟のようなものが見えた。
リッドでも目を少し凝らさないと正確な穴は見えなかった。
軽く呆れるような顔をした。

「わかりづらい位置にあるぜ・・・」

渋々としながら、ゆっくりと降りていく。
途中、キールの運動不足を考慮して、ファラがキールに手を差し伸べるが、軽く赤らめて断る。
リッドと背負われたメルディは軽々と降りていった。
メルディもリッドの体をギュッっとつかみつつ、落ちないように耐えた。

「おーい!キール遅ぇぞー!」

洞窟の入り口の前で崖の上まで聞こえそうな声で喋る。
やっぱり、昔よりせっかちになってると、多少思いつつ、少しずつ降りていく。
この時、ファラもキールと一緒に進んでいた。
やっぱり、運動不足をかなり気にしている。

「遅ぇな・・・先に進んじまうか。」

細かく、足を動かしながら待ってみたが、キールがとにかく遅かったので、先に進んでしまうと思った。
そして1歩踏み出した途端・・・
ピカッ―。
リッドはすぐ近くで赤く光っているような感覚を目に入れた。
後ろを向いてみると、メルディのおでこ辺りについている丸い物が赤く光っている。
最初の頃に受けた暖かい光と同じ感覚がした。
それと、森で崖から落ちた時も・・・。

「なんだ?・・・いつもは青じゃなかっ・・・」

た・・・助けてくださいです〜!!!

疑問に思ってる間に、洞窟の中から15歳くらいの女の子の声が聞こえた。
少し謎があったが、そんなところではなかったため、洞窟の中に急いで走っていった。
そんなことも全くわからない2人。
崖の大体の所までは降りていたので、リッドの走る姿がはっきり見えていた。

「おい!リッド!先走るなよ!」

そう言ったが、あまりにもその位置から差がありすぎており、更に風により助けを呼ぶ声は全く聞こえなかった。
しかし、キールはこれ以上降りる速度を上げられなかったため、軽くため息をつく。
さすがに耐えられなかったか、ファラがキールを背負って、一気に降りていく。
断ろうとしたが、断るタイミングをも逃す。
長い期間一人だったので、人との馴れ合いを忘れていた。

「さっきの悲鳴があった場所はどこだ?・・・暗くて見えねぇ・・・」

洞窟の中は洞窟というより鍾乳洞に近かったかも知れない。
水の落ちる音ばかりが聞こえてくる。
耳を澄ますと、微かに走っている足音も聞こえる。
それと、もう1つ大きな足音。

「・・・とりあえず、進むしかないようだな・・・」

足音のある方へと走っていく。
しかし、ここは鍾乳洞。音が直線に伝わってくる訳がない。入り組んでるなら更にだ。
知識あるように見えるが、結局勘になってしまった。
それでも、本人にはわからない。

「はぁ、はぁ・・・」

暗くて見えづらい道を進んでいく少女。
敵の足音がどんどん小さくなっていった。
それと同時に心音も少しずつ安定する。
その安心からか、一気に足が崩れるように座る。

「やっと・・・逃げられたですー・・・」

軽く、手の甲で額の汗を拭う。
被っていた帽子を取って、息が整うまでそこらの岩によしかかりながら待った。
そして息が安定した後、手提げの様に持っていた物を掴む。

「さて・・・さっきの続きですー。」

持っていた物についている糸を確認する。
何回かその糸を弾き、音を調節した。

この〜世界には〜♪いろいろと〜悲しいこともある〜♪
そんなことが〜あっても〜♪騒いで〜忘れる〜♪

少女の趣味は作曲。
しかし、ほかの人には騒いでいるとしか思っていない。
その騒ぎはきっとリッドにも聞こえている―。
大好きな事にずっとのめり込むように・・・ずっと歌いつづけた。

「ああ〜〜〜♪大きく〜〜〜♪」

グゥゥゥゥゥゥ・・・

すぐ近くで寒気のあるうめき声が聞こえた。
そのいつも平然に聞いている足音が恐怖を感じ出している。

「・・・ぇ?・・・」

そのうめき声に、引いていた手が止まった。
目では何かは察知できなかったが、何故か軽く手が震える。
少しずつ声があった方に向くと、ギラギラした目を持った生物。
危険―。
急いで立とうとするが、さっき崩れたように座った足が動かない。
その瞬間、心音が大きく揺らぐ。
だ・・め・・・足が・・・―。
すべての安定が崩れたような感覚がした。
目や耳や感覚・・・そして心臓。
襲われると分かってても、恐怖という一念だけで動けない。

「や・・・やめ・・・」

魔神剣!
地面を這う剣圧が少女の横を通り、その大きな生物の足を僅かに怪我をさせた。
その瞬間、その生物はさっきよりも大きなうめき声で叫ぶ。
しかし、リッドはメルディも背負っており、片手だったので、威力が半減している。
そして隙ができている間に一気に間合いを詰めた。もう、戦いなれている。

虎牙破斬!

敵に一気に飛び込んで二連撃の攻撃。
いきなりそんな技をするので、メルディは軽く落ちかけたが、何とかギュっとリッドを強く掴む。
深い傷が2箇所も入り、敵が一気に倒れこんだ。
その後、軽く血のついた形見の剣の血を拭き取り。即座に鞘に収めた。

「大丈夫か?」

そう言って、右手を出す。
いつものリッドには見えない行動、そして姿。
二人の姿は見えていない。そのはずなのに、何かリッドが眩しく見えた。
その姿に、少女は顔を赤らめて微笑む。
その後、二人の手が触れる。
しかし掴んだだけで、少し時が進んだ。

「・・・立てるか?」

普段ではファラにですらやらない心配。
個人的にも何かと知らず知らずに優しくしていた。

「えへへ・・・さっき、足がすくんだったです。」

そりゃぁ・・・な―。
初めてあんな巨大な敵を見て、そうならない方が怖い。
そして、手を一気に引いて少女を立たせる。

「あ・・・ありがとうございましたです!」

少女は大きく頭をおろした。
そして、そのおろした状態から、軽く上を向き、目線が合った。

「い・・・いやー、そこまで言うほどじゃないけどさ・・・」

そう言って、照れてるようにした。
しかし、本当は目線が合った事に軽くドキッ、っとしていた。
お互いに―。

「あの・・・私コリーナ・ソルジェンテっていいますです♪・・・貴方の・・・名前は?」

「コリーナ・・・か。俺は・・・リッド・ハーシェルだ。」



「リッド・・・・・じゃぁ、これからリッド様って呼びますです♪」





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