「遅ぇぞー、キール。」
無碍、そして軽く疲れた声が岩山全域に響き渡る。
ゆっくりと歩く足を止めて、後ろにいるキールに声をかける。
「う・・・うるさい!少し疲れてるだけだ!」
大きな声で罵声するが、全く迫力がない。
壁の岩に手を当てながら、ゆっくりと3人の場所へと向かっていく。
そんな姿を呆れてみるリッド。
「ったく・・・キール。ホントに体力落ちてんじゃねーか?」
壁に腰を当てようとする。
しかし、メルディを背負ってる事に今更思い出し、壁に当てるのをやめる。
とりあえず、溜め息だけつく。
「仕方ないよ。勉強ばっかりしてたんだから。ここでちょっと休憩しよっか。ね。」
勉強ねぇ―。
渋々と、辺りの石をどかしてなるべく平地にする。
メルディを近くに降ろして、自分も座った。
だが、さっきまでずっとキールの家で休んでいて、全く疲れてはいなかった。
とりあえず暇なので、目を瞑る。
「キール。気にしなくていいよ。勉強してるってこと自体すごいんだから。」
無理やり誉めようとするが、キールは無反応。
いつもはリッドには怒るファラも、今は怒らなかった。
そして、話が全く浮かばないまま10分が経過する。
聞こえているのはリッドとキールの声ではなく、風の音と鳥の鳴き声。
いつもは聞こえない風の音がこんなに聞こえる。
「そろそろ・・・いこっか。」
その声に息を取り戻したキールが立ち上がる。
メルディは立てないと分かっているが、リッドは瞑ったまま眠ってしまっている。
ファラが肩を振ってみるが、起きない。
「ホントにリッドは寝てばっかりなんだから。」
軽く怒りながら、そう呟いた。
ホントに、呆れるくらいに。
「昔を考えて、ずっとやんちゃかと思っていたが・・・違うみたいだな。」
ずっとと言っていたが、本当はここ10年完全に忘れていた。
矛盾があったが、それは言うのはやめた。何か言いづらい。
「うーん、こうなったのはキールが居なくなってからだったかなー。」
「僕が居なくなってから?なぜだ?」
珍しくリッドに興味を持った。
本人にとっては、そこまで真剣ではなかったが、真剣にようにも見えた。
「何か・・・確か、遊び相手が居なくなって寝るのが主流になってきたとか・・・」
遊び相手がいない?ファラがいるはずなのに?―。
今、何かと違う意味の価値観が出てきた。優等生としての価値じゃなくて、友達としての価値。
キールにとっては、その価値の大きさを知らない。だから疑問に思ってしまう。
何よりも大きな価値を―。
「ふぁー・・・。いつの間にか寝てたな・・・。」
け伸びするように腕を上げて体をほぐす。
その後、軽く頭をかくようにして、いつもより細い目で3人を見る。
「リッドが起きたから、いこうか。キール。」
あ・・・あぁ―。
ホントはそう言うべきであったが、その声が出てこなかった。
僕にとっては、昔はいい思い出より、悪い思い出の方が多かった。どれもこれも、全てリッドのいじめのせいだ。
どちらかというと、ファラとの思い出の方が多い。
僕にとったら昔のリッドはやんちゃないじめ子供だ。
しかし、僕が消えてから性格が変わったのはなぜなんだろう。
ホントに変わった奴・・・ってことでいいのか?。
初めてだ。今の僕に確信できない答えなんて―。
「ふぅー、やっとこの岩山から降りられたねー。」
そう言って、軽く空を見上げる。
キールにとっては何ヶ月もここにいるため、こうやってあの家を見ることがなかった。
いつもより、岩山が立派に見えた。
「ったく・・・さっさとその洞窟とやらにいこうぜ。」
面倒そうな顔をして、軽く早足で進んでいく。
やっぱり何年も森にいるからか、方角は間違えていない。
リッドの意外な技かも知れない。
「・・・僕がいなくなってからも、ずっとせっかちだったのか?」
「そ・・・そこは変わってないねーやっぱり。」
軽く焦りつつも、リッドを追っていった。
その当たり前の風景が、いつからか、珍しく感じた。
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