「やっと出られたー!」

大声で高々と声を上げる。
今までの暗闇は気分が優れるものではない。
自然と光で生活してきた二人には特にそう感じている。

「ふぅ、やっと外か。」

疲れ果てたキールが杖を突き刺しながらコツコツ、と歩く。
太陽の日差しが当たる所で崩れたように座り込む。
何年も部屋の片隅で本を読みつづけて、完全に体が訛っている。
完全に息も切れている。

「キールさん、大丈夫です?」

「ふぅー・・・あ、あぁ大丈夫だ。しばらく休めば、普通に動ける。」

ちょっと勝手なキールの提案で休むことになった。
しかし、こんなにいちいち休んでいられるのも、真実を知るまでだった。
どれだけ重大な事かはメルディだけしか知らない。
問い掛けても誰も分かるはずもない。

誰も、分かってくれないよ・・・フィブリルも、ファラも―。

そんな事を想っている事も知らず、休む4人。
癖のようになったか、リッドとファラはすぐにと言うくらいに準備に入った。
元々、二人でも十分やっており、取り残されるように残った3人。
メルディは仕方ないが、キールとコリーナは特にやることがない。

「うわー・・・キールさん。ずいぶん難しそーな本を読んでますねぇ。」

片隅で一人座っているキールに一人で寂しかったか、寄ってきた。
とにかく、皆に馴染んでいきたい。それだけだったかもしれない。

「あぁ、これは科学的要素の文書で、晶霊の存在についての・・・」

相変わらず難しいことを言うキール。
しかし、彼にとってはこれが普通だと思っている。
とりあえずキールの前で座ったが全く分からない。
完全に話が掴めず、混乱したまま、時とキールの口だけが動いていく。

「・・・と晶霊について・・・、おっと、済まない。少し難しかったか。」

「ぜんぜんわかんないけど、分かると面白そーですね。」

その言葉に曇りはなかった。
本当に純粋で、嘘をついているようには見えなかった。
―昔のファラに、なんだか被るな。



「うぃーす。獲物取ってきたぜぇ。」

ふさふさした毛皮の大きな獲物。
やっぱりリッドが取って来たものはエッグベアだった。

「え・・・?アレを食べるんですか?」

少し唖然とするコリーナ。
確かに初めての人にはこわいかも知れない。
でも、

「仕方ないんだ。食料がないとあんな杜撰な物でも食べないと生きていけないんだ。」

仕方ない口ぶりでキールが答える。
しかし、最初はコリーナと同じくかなり唖然としていた。
もう慣れてしまった。

「まず、エッグベアの肉は栄養値も低く、保存も出来ないのに・・・」

「仕方ないでしょ!リッドが全部食べたんだからー!」

軽く苛立ちを感じながら話に絡んでくる。
リッドの大食いには誰もが苦労しているのだ。
数日で、体格もリッドより大きいエッグベアを全て一人で完食してしまうほど。
ある意味それでも太らないのは不思議でもあり、うらやましかったりもした。
昔からだったので、キールもそれは知っている。
それでも、癖なのか、口が動いてしまう・・・



パチパチと焚き火が燃え上がる。
それを取り囲むように5人が座る。

「おー!うっめぇ!!」

空腹状態であるリッドが一気に肉に食べつく。
見ていると、確かにおいしそう。
でも、実物を見たあとでは何だか食べる気が出ない。
横を振り向くと、他の3人も普通に食べている。
自分だけ手が動かない。

「どうしたの?コリーナ。」

「あ・・・実物をそのまま見ると・・・食べる気がなんかしなくて・・・です。」

「深く考えすぎなんじゃねーの?気軽にいかねーと、体力もたないぜ?」

ある意味その通りだと二人はうなずく。
なにもかも嫌っていては、この旅はやってはいけない。
少し手が動かなかったが少し勇気を出して口に入れてみた。

ホントだ。おいしぃ―。



「そういえば、コリーナは一体どこにいくの?」

「あ・・・王都インフェリア辺りにいこうかなと思ってるです。」

「王都か、俺たちはモルルまでだから、それまで一緒でいいだろ。」

そう言って、体を少しずつ地面に倒した。
いつものようにただ、空を見つめあう。

「最近、空なんて見る余裕なかったなー・・・あの黒い雲から。」

「空?」

リッドにとっては、これが1番の休息だった。
流れる雲、飛び交う鳥。
全てが動いている。全てが生きている。

しばらくしていると、鞘から剣を取り出した。
使ってまだ数日。でも、少し血がついている。
その剣を空へと突きつけ、

父さん―。
勝手に形見の剣使ってごめん―。
でも、人助けだからさ。許してくれよ。―。



高々に、想いを伝えた。
どれだけ長い旅になるかも知らず。






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