村の中は、山の中の村と言っていいくらいなのに、それとは思えないくらい村人が活気に満ちていた。ここがリッドとファラの故郷。
正体も分からない少女を背負って村まで来てしまったリッドとファラ。とりあえず、休むためにファラの家へと行き、3人はそこで休んだ。眠っている少女は、ファラのベットに運んで、二人は今日の出来事を振り返っていた。やっと出来た振り返る時間だった。
そうして、振り返っていたら、隣の部屋からガチャ、と音がして、さっきの少女がやってきた。少し、眠そうな顔をしていた。リッドとファラと一緒にいた青い生物がぴょこぴょこと、少女に向かう。そして、辺りを見回して、ファラとリッドの間に座る。

「んで・・・これから、この子はどうすんだ?・・・」

リッドが少し心配そうに言う。それはそうだ。一緒に住むならば、村長の許可がないといけないし、無断で一緒に住んでたら、その子は虐待を受けて、この村では住めなくなる。それを、全く心配しないようにファラが・・・

「大丈夫だよ!お父さんなら分かるって!イケるイケる!」

そう、ファラのお父さんが村長だった。だから、全く心配していなかった。そのファラの安心感から、リッドも少し安心できた気がした。しかし、そんな話をしてるのをしらない少女はいつの間にか青い生物と一緒に遊んでいた。
許可を得るために、二人は、遊んでる少女の手を掴み、一緒に連れて行った。
村長の家に行く途中、歩いていると、やっぱり村人にとっても少女と青い生物は珍しかったから、視線がこっちに向いていた。しかし、少女がこっちを向くと、村人は見ぬ振りをして、作業に戻る。少女にとっては、まだ居心地のいい場所では全くなかった。
そうして、少女にとっては不安だらけで村長の家に着く。ファラがその扉をコンコンと叩き、中に入った。リッドにとっては、村長の家に入るのは初めてだったから、興味本位もあったか、中に入って辺りを見回す。家の中は、壁が木なのはもちろん、地面も木で出来ている物で、広い空間に黒く、4人くらいは座れる椅子とテーブルだけだったから、空間にしては、もったいない。

「村長、お話があるのですが・・・」

本当はお父さんって呼びたい―。
その声でファラと気づき、村長はこっちを向いた。そして、リッドを見て何故かまた後ろを向いた。村長にとっては、リッドが大嫌いだった。
そして、後ろを向いたまま・・・

「・・・なんじゃ・・・」

その声には、少し威圧感があった・・・。父の威厳なのだろうか・・・。そんな威圧があるにも関わらず、やっぱり、こっちには向いていなかった。
そして村長は後ろを向いたまま、これまでの事を、村長に話していった。森の衝撃のあった正体。そして、言葉すら通じないこの少女についても・・・。

「ふむ・・・大体は理解できた・・・」

そう言って、やっと椅子から立ち、こっちを向いた。そして、杖を地面につきながら、こっちに近づいてくる。見ているのは、リッドでもなく、ファラでもなく、少女だった。村長に見られた瞬間、少女は背筋がゾッと冷える感覚がした・・・。

「しかし、一緒に住むというのは認められんな・・・」

そう、言われた瞬間、二人は抗議した。もちろん、二人はそんな発言を認められないからだ。その3人の騒ぎをしている最中、自分も喋りたい気持ちが高まったが、ここでは言葉が全く通じない・・・。リッドの言ってる事も、ファラの言ってる事も・・・そして、自分の言いたい事も・・・。ただ、そこで立って見続ける。それしか出来ることがなかった。
二人で抗議するが、なかなか村長は自分の言葉を屈しない。リッドは、もう駄目かと、思いかけたその時・・・
いきなり、風が吹いた。それは、おかしいことだった。この家には、窓が無いはずなのに・・・。そして、4人とも、風の吹いた方向を向くと、木の壁が壊れていた。壊れていたのにも関わらず、音がしなかったし、何より壊れた木の破片が家の中には無かった。そして、家の中にまたインフェリアには無いような服装をしている若い男がいた。その若い男を見た瞬間、少女の腰が抜けるように座り、震えていた。そして、その男には、右手には何らかの結晶のような物を持っていた。

「ウ アエヌン フィオムド ヤイオ!」

この男も、訳の分からない言葉を話す。その声は薄暗くて、リッドも一瞬寒気がした。しばらく、その場が氷のように固まった。そして、その男が少女に向かって歩いて近づく。一歩一歩が、恐怖の祭壇の様に思えた・・・。無理やり、手を引っ張り連れて行こうとするが、手を離して拒んでた。そして、しばらくまた訳の分からない言葉の送り返しが続く。ファラは、見ているしかないと思っていたが、リッドは二人に近づき、その男に剣を向ける。リッドの眼差しは、熱く・・・そしてその目でその男を睨みつける。

「何話してんのか知らねぇけどよ、この子は嫌がってんじゃねぇか」

その姿を見て、その男はその目を軽く避けるかの様に軽く笑う。そして、何故か更に近づき、軽くリッドの剣を叩く。そして、男のポケットからコインのような物を出した。どうやら、これを弾き上げて、落ちたら戦闘開始・・・と言う合図だった。その男の様子を見て、リッドも軽く嘲笑う。そして、コインが弾き上げられた。そんな二人の姿は、他の人には全く分からなかった。いわば決闘を知る者しか分からない。コインが落ちるのがゆっくりに感じる。少女には、その二人の姿が勇ましくも見えたが、同時に顔を少し悲しませた。

「ファラ 手ぇ・・・出すなよ」

そうして、コインが地面に当たり、音を上げる。
その瞬間、男は後ろに下がり、リッドは男に向かって走る。前に走る方が速かったから、リッドがその男の間合いを詰めて、剣を振る。しかし男はその攻撃を軽くかわしていた。その時、小さく呟いているような声が聞こえた。
武器の持ってない奴に負けるかよ!。と思っているが悉く剣がかわされる。その男が呟き終わったと同時に隙が大きかったのか、リッドを鈍い音で蹴飛ばして、手を上に上げた。リッドが立とうとする時、男の手に空気が集まる・・・。一気に空気が膨張して、寒くなったことが分かった。その寒さか、一瞬リッドの動きが止まり、その間に、空気が集まりきり、圧縮された巨大な剣が現れる。そして、その剣の周りには雷のようなものが帯びていた。それが原因かはわからないが空気がピリピリして痛い。男の剣が1回地面に叩きつけた。それだけで、地面の木の板が一気に消し飛ぶ。
格が違う・・・。正直にそう思った。しかし、ここで怯めばこの子は一体どうなるか分からない。だから、リッドは臆せず、相手に向かった。だが、剣の長さは圧倒的に男の方が長く、先に男の方が巨大な剣を薙ぎ払った。なんとか、スピードにはついていって、自分の剣で受け止めようとする。しかし、格の違う剣だったからか、リッドの剣が一撃で粉砕される。剣が無くなったせいで守る物が無くなり、僅かだったが、肩を掠められて、更に少し吹き飛ぶ。
その時、壁から風が吹き、その男の髪を靡いた。それが、圧倒的な強さの紋章を表すかの様に・・・。そして、剣を消して、また呟き始める。その時の隙を狙おうとして立とうとしたが、体が動かない。さっきの掠めた攻撃の雷のせいで、一時的な麻痺が起きていた。

「や・・・やべぇ・・・」

心の中で思おうとしていたのに、何故か小さく口に出てしまった。そして、地面を向き、今頃剣に拵えしか無く、刀が折れているのに気づく。体が動かないから、地面か、男を見るしかなかった。その男が呟きを終えて、こっちを睨みつけた。リッドに恐怖が一気に宿り、戦う前に見せた熱い眼差しは全く感じられなくなってしまった。そして、一瞬だが持っていた右手の結晶が光ったように見えた。暫くして、リッドの周りに何かの空間が発生する。その空間がリッドを包む・・・。本当は、完全に包まれる前に逃げるべきだったのかも知れない。まだ、体が痺れていた。
その時、目を強く閉じた。もう、剣も体も動かない今、何かを願うしかなかった。
そんな姿のリッドを見て、ファラは耐え切れず、一歩踏み出そうとした。しかし、ファラの横から誰かが走ったような風が靡いた・・・。
そして、リッドが包まれきる寸前、横から誰かから押されたような感覚がした。そして、リッドは気づかなかったが、小さな光が出ていた・・・。押されたことによって、何とかリッドは、その空間から出ることが出来たのだが・・・。

「な・・・何・・・?・・・」

リッドもファラも目を疑った。押された感覚があったのは、少女がリッドを押した感覚であった。完全にその空間の中が包み終わったと同時に、また腰が抜けたように座った。
少女には、荒波を激しく打ちつけるように、心臓の音が大きく聞こえていた。その位置から動いていないのに、息も荒くなっていく。そして、リッドと同じく、目を強く瞑り、更に震えていた・・・。
そう気づいたのなら、助けないといけないのだが、まだ体が痺れていた。やっぱり、それが辛くても今は見届けるしか出来なかった・・・。
空間の中から、僅かだが電気が漏電してるのが見えた。すぐに大量の電気が空間内を襲う・・・とリッドは一瞬で判断した。電気の恐怖なら、昔ファラと遊んでいた時に漏電したのを触って痺れた経験ならあったが、あの男の力からして、そんなに甘い電気は来ないともすぐに察知した。
―殺される・・・。
助けたかった。こんな痺れが無かったら・・・。リッドはここで見届ける辛さを覚えた・・・。こんなの・・・忘れたくても忘れられない・・・。
しだいに、空間内の電気が過激に、凶暴になっていく。しかし、少女は全てを妨げるように、目を強く瞑っていた。だから、そんな事など分からなかった。そして、電撃が少女の腕に当たり、その一撃だけで、激痛が伺えた・・・。暫くすると、空間内が全く見えないくらい電気で包まれていた・・・。それと同時くらいだろう。やっとリッドの体の痺れが止まり、手だけを動かしてみた。感覚は戻ってなかったが、動けたと判断し、拵えを男に投げた。その男は目を瞑っていたからか、頭に当たった。その一瞬の緩みにより、空間は激しい音を立てて割れた。割れた瞬間、リッドとファラは少女に近づいた。少女は、ポツポツと火傷のような痕が残り、気絶していた。鮮やかであった紫色の髪が、少し焦げている場所も出来てしまっていた。そして、良く見ると全身の殆どで痙攣を起こしていた。
そして、男は結晶のようなものをポケットに入れた。そして、良く分からない言葉の書かれた紙を置いて、自分で空けた壁の穴から、歩いて出て行った。なぜ出て行ったかは知らなかったが、とりあえず、そこから出て行ったからよかったと二人が正直に思った。
情けねぇ―。リッドは正直にそう思った。少し舌を噛み締めて、惨めになった。
そんな二人だったが・・・

「・・・リッドよ・・・お前は本当に厄を運んできてくれるのう・・・」

村長から、呆れたような一言が生まれる。ファラは、その先の言葉を先読みしたように、顔が少し暗かった。そして、村長に近づき、下を向きながら・・・

「それって・・・つまり・・・この子を本当に追い出すのですか?・・・」

その、ファラの一言を聞いてリッドも少女から離れて、村長の所まで走っていった。
確かに、今回は―・・・
やっぱり、認めることが出来なかった。

「勿論だ この子は追い出す 異論はない」

杖をつきながら、また後ろを向いたまま椅子に座った。もう、撤回しようとしても分かってはくれない。そんなことはリッドもファラも分かりきっていた。反論するのは無理だと分かったファラは、少し尖らせて・・・

「それなら・・・私も出て行きます・・・それでは・・・」

いきなり、ファラがそう言って少女を背負い、自分の家へと走りながら向かっていった。家の扉からリッドはファラを見て、密かに涙がこぼれていたのがリッドにはわかった。そして、リッドも心配になり、走ってファラを追いかけた。そして、二人が走って去った後、こっそり村長が家の扉に立って、リッドの背中を見ていた・・・。




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