「っってぇ〜・・・」

ラシュアン山道の真下の森から、リッドの声が聞こえた。リッドが起きたのはもう朝日が僅かに見えた。地震の後、リッドは崖から落ちたのだが、崖は100m以上はあるのに、なぜかリッドは助かっていた。しかしその後の記憶がない・・・。リッドは、地震の寸前が眠かったから、落ちた後、安心して寝たんだと普通に思い込んだ。そして、こんな所に居てもしょうがないと思ったリッドは立とうとしたが・・・。

「う・・・。ちょっと足を捻ったか・・・」

動かそうとした瞬間、少し痛みを感じた。動けないまでとはいかないが、無理に動いても見つからなかったら意味が無いので、リッドはそこで待機する事にした。少女の目覚めを待ちながら・・・。
そして、そこで30分くらい待機してる間に、またリッドは寝ていた。リッドのすぐ横に少女を寝かしたので、二人一緒に肩をつけて寝ていた。二人して、可愛い寝顔をして・・・。
そして、そのまま暫くしていると、いきなり誰かがリッドの肩を揺らした。それで、目を擦りながら起きるとそこには、警察のような服を来た男性がいた。警察を判断したリッドは一瞬かなり驚き、ちょっと引いた。しかし、そんなのを知らないように警察が不思議なことを言ってきた。

「ちょっと君、昨日ここで謎の巨大な光が発生したのだが・・・知らないかな?」

リッドは訳分からなかった。もちろん知らないので、リッドは首を横に振り、知らないと答えた。謎の地震、100m以上の落下での軽度の怪我、謎の巨大な光。それ以外にも分からない言葉など、1日弱で大量の疑問が生まれた。何もかもが分からないだらけのリッドは、少しその場で考えようとするが、証拠が全くないので、考えるだけ、無駄に時間が過ぎていった。
考えている間に、またリッドの肩を叩く感覚がした。また警察官かと思ってそっちを向いたら、叩いていたのは警察官ではなく、眠そうな顔をした少女だった。

「・・・や・・・やっと起きたのか?」

そう驚いていたが、少女には何をいっている全く分からなかった。お互いが分からないのだが、リッドはそんな事よりも起きたことがうれしかった。それに、眠ったからか足の痛みを完全に消えていた。そしてリッドがすくっと立ち、軽く体を伸ばす。リッドはまだ座っている少女に声をかけようとしたが、通じないことを喋る寸前に思い出し、手の差し出す。少女は手を掴み、ゆっくりと立った。そしてリッドはファラを探さないといけないので、適当に進み始めた。リッドが歩き始めて5歩くらい歩いた所でドサッと音がした。その音を聞いて、すぐに後ろを向くと、そこには倒れている少女の姿があった。しかし、なぜか倒れても手だけを使って立とうとしていた。その奇妙な姿を見て、ゆっくりと歩いて少女に近づいていった。そして、また立たせる。今度は気になったので、歩かないで少女を見ていた。見ていると、いきなり足を踏み外してコケそうになったが、リッドがそれを支えた。リッドは支えた少女を立たせようとするが、少女がリッドを抱いた。その時一瞬リッドの顔が赤らむ。そして、その行動に不思議に思う。
その後、何度も歩かせようとするが、1歩も踏み出せない・・・。原因のわからないリッドだが、とりあえず歩けないので、眠ってた時のように背負い、走りだした。

その頃、ファラは山頂から降りて、リッド達が居た森に来ていた。ラシュアン山道は地震のせいで起きた土石流のせいでかなり歩きづらくなっていた。登りと一緒くらいの時間をかかって、やっと山道を降りて、森に着いた。ファラは軽く息を荒げて、森の奥に走っていった。

「リッド〜〜〜!!!」

何度もそう叫ぶが、リッドから声は帰って来なかった。叫ぶたびにモンスターが大量にやってきて、進むのがかなり遅れてしまった。そして、モンスターとの連戦により、疲れて木に座った。ファラが座っていると、警察官が通った。ファラは、木から立ち上がり、少し問い掛けた。

「あの・・・リッ・・・じゃなかった・・・赤い髪をした人がいませんでしたか?」

流石に警察官だったのか、少し女の子っぽく丁寧に言った。

「赤い髪・・・あぁ・・・さっき見つけたねぇ・・・」

その言葉を聞いて、ファラは場所を問い掛けた。そして、警察官も場所を言った。その言葉を聞いてファラは一気に走って行った。そして、警察官が・・・

「今日は人が多いなぁ・・・巨大な光の観察か?・・・危険なのに・・・」


リッドは、森の奥に居た。いつも森にはなれていたが、流石に初めての森は難しかったか、迷っていた。軽く舌打ちをし、森の彷徨っていた。木を見つける度に壊れた拵えで傷をつけていた。やっぱり形見だからなのか、まだあの剣は使わなかった。
そして、更に奥に行くと、いきなり大量の喚き声が聞こえた。その声が聞こえた瞬間、リッドはその場で止まり、警戒を始めた。暫くまっていると、草の茂みから、大量のモンスターが一斉に襲い始めた。リッドは流石に壊れた拵えじゃ無理と思い、形見の剣を引いた。
―父さん・・・。
その剣を使うたった一つの約束。それは、誰かを守るために引く剣だ。そして今は自分を、そして背負っている少女を守るために、約束を守って引いた。
その剣を使って、敵を減らしていく。いくらいい剣を使っても、片手を少女を支えるのに使っているので、うまく動けず、苦戦していた。しかし、降ろす暇もなく、避けては攻撃しかなかった。それでは、時間がかかり、敵を呼び寄せる時間まで作ってしまい、減らそうにも減らせなかった。幾度、敵を切りつけても、敵が来る・・・、これでは、ただ形見の剣を血に染めるだけだった・・・。さすがにこれ以上は体力的にも苦しくなってきたので、技を連打して一気に全部片付けた。辺りの木や地面、モンスターまで血まみれとなって、その中心にリッドが立っていた。

「リッド〜!!!」

ファラがやっとリッドを発見した。リッドのモンスターとの騒ぎのおかげか、見つけることができた。しかしファラは、辺りの血まみれの風景を見て、少し引いていた。とりあえず、二人は無事だったので、ファラは今は安心した。リッドは、辺りにあった大きな木の葉をちぎって、剣を拭いていた。そして、拭き終えて、剣を鞘に入れた。

「ファラ・・・。すまねぇな・・・、昨日は一人で勝手に飛び出しちまってよ・・・」

「うん・・・でも、飛び出さないと、あの子がヤバかったかも知れなかったし・・・」

ヤバくは無かった・・・。敵なんて居なかったし―
しかし、その言葉について、反論はしなかった。そんな話をするより、ミンツに行く方が優先だったからだ。それに、こんな血まみれな風景では、話すにも、話しづらい場所だった。
そして、森を戻り、またラシュアン山道を通った。やっと進めると思った二人だったが、今度は、土石流の撤去で、道をどかしていた。そんな姿を見ても、ファラは工事の人を呼び出して、進みたいと言ったが、その人はなかなか許可を出してくれなかった。そして、いつまでかかるかと工事の人によると、2週間かかるらしいと分かった。しかし、そんなに待ってはいられない二人だった。

「2週間か・・・どうする?」

山道を少し降りた岩山で、二人が話していた。この子の願いが、早くしないと手遅れになるかも知れないと思ったファラは、どうするか、リッドの言った。

「そ・・・そりゃぁ・・・別のルートを探すしかねぇだろ?」

確かに、別ルートを探すべきだと一瞬ファラは思った。しかし、この付近ではラシュアン山道しかミンツに向かう道は無い。遠回りするルートがあるが、それも土石流撤去ののかかる期間と同じくらいになるくらいの遠回りのルートしか無かった。そして、その遠回りのルートは、インフェリアも危険なため、通行禁止のルートとなっていて、行くアテがなかった。
進めない二人だったが、リッドが口を開けた。

「なぁ、ファラ・・・あの森って、ミンツまでいけないんだっけ・・・?」

さっきまで、3人が彷徨っていたあの森を思い出した。リッドにとっては、すごい名案だと思っていたが、ファラは小さく口を開けて、言った。

「無理だよ・・・森の最深部に、大きな崖があって、深さは500m、長さは100mあるんだよ?」

ファラにとっては、その崖のせいで進めはしないと、空回りのリッドの案だと思っていた。しかし、リッドは、そう聞いて、何かを少し確信した顔をしていた。

「100mか・・・それなら、1日でいけるか・・・」

三日?―
ファラには、一体何を現す期間なのか、検討にもつかなかった。しかし、リッドは相変わらず確信した顔をしていた。一体何の期間かと、ファラが口を開けた。

「ねぇ・・・一体何の期間なの?」

「あ・・・あぁ・・・道がなけりゃ、作る!それが俺のやり方だよ」

そう言って、リッドはファラの手を引いて、走って、森に行った。ファラは、道を作るとは聞いたが、一体どうやって作るかは、全く分からなかった。でも、とりあえずリッドに名案が浮かんだのだと分かったので、今はとりあえずそれに賭けるべきだとファラは思った。
二人で森の最深部に向かって進んでいき、崖の前まで一気に走ってきた。リッドが崖の恐怖を恐れないかのように、崖の下を覗き込んだ。そして、そこらに転がっていた石を投げて、耳を傾けた。地面に当たった音が、500mも高いリッド達の場所まで聞こえる・・・。一瞬ファラはその当たった音にビクついたが、リッドは、普通に地面を向いていた。

「へぇ〜・・・崖ってこんなに高ぇんだな・・・」

ラシュアン付近には崖は無く、リッドは、初めてだった。実言えば、石を投げた意味もあまり無かった。そして、崖の存在を確かめると、剣を持って木の前に立った。

「んじゃ!ファラ!今からこの木を倒して、橋を作るからよ!」

そう言って、剣をノコギリの様に使って、木をドンドン倒していった。木はドーンと大きな音をして、倒れており、辺りのモンスターもその音に恐れたか、逃げていった。ファラは、武器を持ってない上に拳じゃ流石に木は倒れなかったので、少女の様子を見ていた。少女は足が不明で動かないので、伏せるように倒れて、手を使って進み、さっきのリッドと同じように崖の下を見ていた。

「・・・パレムティアドゥ・・・、ベ ムティ アウグア・・・」

何かに関心してるように言った。しかし、何を言ってるかは分からなかった。早く言葉を理解したいと、正直にファラは思った。そして、暫く見入っていると、崖の下から軽い突風が吹き、紫色の髪が靡いた。そして、ファラは本望の意思ではなかったが、何故か少女をすぐ近くに一緒に伏せるように倒れて、崖を下を見入った。

「崖って、大きいんだよね〜・・・」

そう言って、ファラは少女に向かって笑った。言葉が分からなくても、感情でどんな感じの話をしているかは少女にも理解は出来た。そして、少女を笑った。

「・・・ヤイオ♪」

そして、暫く一緒に話していた。言葉が分からなくても、感情は分かる。お互いがお互いに言葉の工夫をして、一緒に話していた。今の二人には、不安が全く見つからなかった。
そして、リッドは木を数十本も切り、それを結びつけた。結ぶ作業については、ファラも一緒に結んでいた。その姿を見て、少女も結ぼうとしたが、なかなかうまく結べなかった。どうやら、細かい作業が嫌いなのだと、二人は思った。しかし、それを誰も止めはしなかった。それは本人の好意という気持ちを防ぐということになってしまうのだと、思ったからだ。そして、ファラが少女の手を握って、一緒に結び方を教える。ゆっくりと、何度もやって、やっと結べるようになって、リッドと変わらない速度にもなっていた。それほど、熱心なのか、手伝いたいのか、慣れるのも早かった。その姿を見て、二人も負けてられないと思い、一気に結び終えた。
そして、結び終えて、110m程度の大きな木を組み合わせた棒が完成した。幅は少し狭いし、橋に掴む場所もなく、ぎりぎり通れる程度だが、ちょっと危ない橋でもあった。
しかし、このままでは、少し問題も起きた。

「リッド・・・これ・・・どうやって向こう側にこの木を置くの?・・・」

このままでは、棒は作っても、渡って奥にはいけなかった。それは道が繋がっていないからである。ファラはまたまた全く検討のつかなかった。少し暗い顔をしてたファラだが、リッドは暗い顔はしていなかった。

「大丈夫だよ・・・。ファラ!少し聞いていいか?」

「何?」

「この崖の気流って、何分くらいにくるか知ってるか?」

気流?―
いきなり、そんな事を聞かれても、ファラはそこまでは知らなかった。そういうと、リッドはまた崖の下を向く。下を見た直後に気流が下から吹いてきた。そして、何度も気流が流れるのを確かめるようにリッドは崖の下を向いていた。ファラは何をしているかは全く分からなかった。

「よし!1回の気流の速度を掴んだ・・・。ファラ、一気にこれを押していくぞ!」

リッドの考えは気流を使って木を真空状態にし、その間に押して、反対側に木をかけることだった。

「二人で、これ・・・押せると思う?」

「大丈夫だよ。ファラのバカ力があれば、いけるだろ!」

「そう・・・って!誰がバカ力よぉ!!」

「ぅわぁぁ!・・・ご・・・ゴメ・・・」

とにかく、二人は木を掴んで、押し始めた。木の面積を最小限にまで削ったが、それでも進む速度は遅かった。そんな姿を見て、少女も少しでもと思い、一緒に木を押す。30分程度かけて、やっと半分まで押した。半分以上はバランスが崩れるので、体力が回復次第、気流にまかせて進めることにした。

「気流の時間が20秒で、後50m・・・」

リッドがぶつぶつと独り言を話していたが、ファラには丸聞こえだった。リッドにとっては、普通にやって20秒で50m進ませるのは不可能と思った。リッドは仕方ないような顔をして、ポケットから何かを出した。

「これって・・・ノベルの実?」

ノベルの実。それはラシュアンの森にたまに実っているものすごく小さな実である。食べると一時的に、力を増幅できるが、これの効果は1分。その後は1時間は腕は筋肉痛のような感覚が続く。

「そうだよ。副作用が激しいけど、この際仕方ねぇだろ?」

「うん、そうだね。イケるイケる♪」

リッドはノベルの実を投げて、ファラと少女に渡す。その実を3人一緒に食べて、飲み込んだ後、すぐに木を押す準備をする。リッドが、気流を逃さないように、崖の下を睨みつづける。そして、崖の下から風が吹いた。

「今だ!」

その声を聞いて、3人が一斉に押す。ノベルの実のお陰でドンドン進んでいった。バランスは気流がなんとか保ちつづけた。そして、木が反対側に掛かった瞬間、気流が消えた。非常に危ないところだったが、なんとか橋は反対側の地面に繋がった。

「うし・・・。成功だ!」

リッドは、ファラにも見えない程度だが、自分の手をグッっと握り締めた。そして、1分経過し、腕が筋肉痛にような感覚になる。やっぱり、動きづらい。

「この感覚〜・・・。昔道場に通ってた頃以来、久々だけど〜・・・やっぱ痛い〜・・・」

木が反対側に掛かったのか、安心し、地面に座った。そして、ファラはリッドにここで休もうと言った。リッドも、とりあえず、土石流に比べでショートカット出来たので、まぁいいかと思った。どちらにしろ、筋肉痛が消えないと、足が不明で動かない少女を運べないから、1時間ここで待つことにした。

「ねぇ・・・なんでこの子・・・足が動かないと思う?・・・」

ファラが口の静めるように、リッドにしか聞こえない声で言う。確かに、何故動かないのだろうと、リッドが言う。最初、森で出会ったから背負って居て、会う前からかと思ったが、リッドをあの謎の男の空間から出すときは、走っていた。そして、その後はまた寝て、旅が開始した。そして、森でやっと動かないのに気づく・・・。やっぱり、あの男が原因なのだろうか・・・。

「てか・・・よく考えると・・・あの謎の男はなんだったんだよ・・・」

「そうだねぇ〜・・・。もしかして!家族とか?」

リッドは、流石にそれはないと言った。そして、いろいろと何かを話したり、リッドが森であったことを話したりと、昨日と今日を少し振り返っていた。
そうして、話をして、1時間がたった。自分の手を握っても、もう筋肉痛のような感覚は消えた3人は、さっき掛けた木を通って、奥に進んでいった。



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