学問の町 ミンツ。
それまでもう少しのところまで来た。
あれから数日が経過した今も、まだラシュアンを抜けてきたと言う感覚がない・・・。

「ファラ、今日中には・・・ミンツに着くんだよな?」

リッドは、ここ数日毎日歩いているため、疲れ始めていた。顔からも、少しその疲労が見える。

「ダイジョブ!今日中には着くから!イケるイケる!」

そうやって、リッドの疲れを何とかごまかそうとする。しかし、顔は笑っていても、心の中ではファラにも少しは疲労があった。そうであっても、元気な自分が1番なのだから、疲れている顔は見せられないという思いがあった。
近くに滝があるのか、水の落ちる大きな音がする。草原を歩いていると、静か風の音が響き渡る。ファラにとっては、いつも森には入らず、家での作業が多いため、新しい感覚がした。数日歩いて、初めて分かった感覚だった。聞いていると何だが気持ちいい。

そして、二人はずっと無言になり、ただ呆然と歩いているうちに、ミンツの町が完全に見えるようになっていた。もう、1キロもないだろう。
しかし、キールと会って、メルディの言葉を理解して貰うが、キールがミンツに居なかったらどうするんだろう。もし、キールに会えても、メルディの言葉が分かるのだろうか。ファラの頭の中では何かを示すようにそういう不安ばかり通り過ぎていく。ここまで不安な気持ちが出たのはあの時のラシュアンの事件以来だろう。
軽く、不安を消し去りたいように拳をグッ、と握る。その握った手からは、湿っていると思ったら、汗があった。
そういうファラの姿をリッドは後ろから観察でもしているかのように見ていた。でも、その姿を止めるような声は一言も出さなかった。リッドには、ファラの胸の中の思いを見透いていた。だから、止めるべきではない。喋らないなら、一人で考えるべきなのだと。

「・・・リッド・・・」

ファラが重い口を静かに開けて言った。二人は、動いている足を止めて、少しの間辺りが嵐の後のように 風も吹かなくなり、静かになった。

「・・・キールでも、メルディの言葉が分かるのだろうか・・・ってか?」

その言葉はファラの思いを完全に突いていた。一瞬ピクリ、と肩が動いた。そして、ゆっくりと後ろに居るリッドを向いた。

「無理だとしても・・・ファラは諦めねぇんだろ?」

そうだよ―。
どんなことがあっても、絶対に諦めないのがいつもらしいファラの姿だった。当たり前な事を言っているリッドだが、その言葉が何よりもファラには嬉しかった。

「・・・うん・・・」

その時、ファラの目には涙が見えていた。真珠のように輝いていた涙だ。
何年ぶりだろう・・・リッドに寄り添って泣いた涙は・・・―。
ファラはいつまでも泣き続けた・・・。リッドの胸の中で・・・。




「んじゃ!行こうぜ!ミンツによ!」

「・・・うん。イケる・・・イケる♪」

旅を始めて数日。
遂にミンツまで到着した。



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