その日晴れていたけど、雨が降り注いでいた気がする。
いや、雨じゃなくて「血」か。
始めて人を殺したあの日。
俺は、人を恐れていた。
自分を暴走させて、気がついたら神託(オラクル)の騎士に剣が刺さっていた。
その瞬間、俺の記憶の中で1番体が震えた。
自分の顔に付いた血を見てこう思った。




俺が、人を殺してしまった。





あれから、数年。





「・・・ク、・・・ルーク!」

ハッ、として俺は目を何度も瞬きした。
俺は昔から嫌がって7年過ごした自分の部屋のベットの上に座っていた。
辺りを見渡すと、そこには旅で1番お世話になった、ティアがいた。
相変わらずのように堅苦しい服装を着ている。

「ん・・・ティア、どーしたんだ?」

自分のボサボサな髪を手で触る。

「もう!話を聞いてなかったの?」

「あ・・・ゴメン、何か久々にあの頃の旅の事が過ぎって来て、聞いてなかった。」

それも、最初の・・・
惨めな自分の姿だった昔を。

「あぁ、あの旅でルークが1番変わったもんなぁ。」

と、部屋の窓からいきなり声がした。
親友の声。ガイだ。

「ガイ!久しぶり!・・・相変わらずそこから登場かよ・・・」

「あははは。まぁ、昔からの癖だよ。使用人時代のあの頃のな。」

「ホント、変わりましたねぇ。最初は本当に絶対馴染んでいけないって思ってたんですから。」

「・・・確かにそう思われても・・・って、」

いきなり背後から、声が聞こえた。
この、誰をも小馬鹿にするような声、口調。

「ジェ、ジェイド!!?いつのまに・・・」

その声にやれやれ、と言うかの如く肩を軽く上げ、両手をその位置まで上げる。
相変わらず、その行動に裏をかかれる。
と言うべきか冷や汗が吹き出てくる。

「おや、気付かれちゃいましたか。」

「・・・そりゃ、声出せば気付かれるだろーが。」



「そんなことより、そろそろ行きましょう。」

「あぁ、そうだな。それより信じられないぜ。あのアニスが・・・」

口走ろうとしたガイの肩にティアが触れる。
その瞬間ガイの体に悪寒が走った。

「ひっ。」

「それは、ルークには内緒って言ったでしょ?」

「わ、わ、分かったから、手を離してくれえええ!!!」

相変わらずの女性恐怖症。
ティアが肩から手を離すと、一気にその場から逃げ反る。
その体の震えは止まらない。
二人の姿を見て、ジェイドの口が少しにやける。

「いやー、若くて結構結構。」

「・・・アンタなぁ・・・」

全員から白い目でジェイドを見つめる。
しかし、それを軽々と交わすように、にやけ続ける。
そして急激にいつも通りの顔に戻す。

「それよりティア、ダアトにいくんじゃないんですか?」

「そうね、行きましょう。」




「ダアトかー、あの旅以来だから何年ぶりだろう。」

アルビオールの中でまたあの旅のことを思い出す。
本当にあの旅が無かったら、俺はわがままで、無知なままだったのかな。
そう考えると、あのお陰で今の正しい自分を見つけられた気がする。
・・・代償も大きかったけど。

「ルーク、言ってる言葉の割には、顔は暗いぞ。」

「・・・やっぱガイには何でも見られちまうな、ホントに・・・。実は・・・」

「イオン様の事を思い出した」

と、先に口走ったのはジェイドだった。
俺の心は本当に読まれやすいようになってるのか、とも思う。
視線をあわせると、にやにやしている。
それでも、イオンのことを思い出すと、ずっとその調子ではいられなかった。
暫く、その場が無言になった。

「皆さん。ダアトに到着しますよ。」

意外にも、その沈黙を破ったのは操縦士のノエル。
ハッ、と考え込んでいた事が消えた。
アルビオールの窓から覗いてみると、ダアトが確かに見える。
様々な事件を引き起こした都市・・・。



街の中に入って見ると、相変わらずのように活気があった。
でも、昔とは違う点が1つだけ。
街の入り口に立っていた預言者(スコアラー)が消えていたこと。

「もう、預言(スコア)は消えたんだな。」

「それでも、まだ少し預言を聞きたがる人もいるらしいけど、大分減ったわ。」

数年前までは、預言を聞く人、ローレライ教団でダアトは毎日賑わっていた。
今は、新たなるダアトに変貌している。

暫く歩くと、ローレライ教団本部の入り口まで来た。
相変わらずの大きな扉、入り口の前にいる二人の神託の騎士。
左右を見回してみても変わったところは一つもない。

「・・・で、ここに来たのは何でなんだ?」

「それは、見るまでのお楽しみです♪」

「アンタなぁ・・・」

渋々した顔でジェイドを見たあと、目の前にある入り口の扉を開ける。
ここも昔と変わらない。
入り口付近は、広々とした空間となっている。

「あれは・・・」

奥の方に目を凝らしてみる。
何か見覚えがある。でも、少し髪型が違う。
気のせいかと思った時、あっちの方もこっちを向いた。
やっぱり、アレは・・・。

「ああぁーーー!!!ルーク!!!」